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株式会社COTENの深井龍之介氏と日経x womanの内田久貴氏によるクロストークイベント「インクルーシブな社会の実現のために社会・組織に必要なこととは?」開催レポート【前編】

7月12日(水)、FLAT BASEで株式会社COTEN代表の深井龍之介氏と日経x womanオーディエンスエンゲージメント長の内田久貴氏によるクロストークイベントが開催されました。

「インクルーシブな社会の実現のために社会・組織に必要なこととは?」をテーマに、子育て世代の女性の働く環境や働きやすい社会・組織についてなどについて、フランクな雰囲気の中、お互いの考えを話しました。

※こちらのページは開催レポート前編です。後編とあわせてお読みください。

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【登壇者プロフィール】

深井 龍之介

株式会社COTEN代表。世界史のデータベース事業をメインとして開発を続けており、歴史を面白く学ぶ「コテンラジオ」を主軸とするメディア事業では、過去にJapan Podcast Award 大賞&Spotify賞を受賞するなど高い人気を誇っている。

 

内田 久貴

働く女性のウェブメディア「日経xwoman」オーディエンスエンゲージメント長。日経xwomanアンバサダーと共に様々なイベントや企画を開催している。

 

熊本 薫(モデレーター)

BREW株式会社取締役 VC・広報PR

株式会社COTENの広報支援や日経xwomanアンバサダーも務める。

インクルーシブな職場環境の必要性と現状

熊本:深井さんは最近、インクルーシブな職場環境の必要性に興味関心があると伺ったのですが、なぜでしょうか。

深井:COTENという会社の中で女性比率を増やしたい気持ちは強いのですが、日本社会が、労働市場上にREADY状態でいてくれる女性をほぼ用意できていないというのが現状です。そもそも採用する母数自体が少なすぎて、アクセスができないという現象があります。この辺りの採用活動を目の当たりにする中で、インクルーシブというのは女性に限らず、LGBTQや障害者なども入ると思うのですが、最大のマイノリティー状態になっているのが女性で、全然インクルーシブではないものを見せつけられる中でやばいなと思ったのが、最初のきっかけでしたね。

株式会社COTEN代表の深井龍之介氏
株式会社COTEN代表の深井龍之介氏

熊本:経営者としての悩みもあるとおっしゃっていましたが。

深井:それがさっき言っていたことで、採用する時にそもそも労働市場にいないんですよね。「いつでも働けるよ」とか「採用してください」という人があまりいない状態です。ヨーロッパなどでは男女差はまだまだありますが、日本ほどではない。例えば日本のメーカーが、ヨーロッパのメーカーとグローバル経済の中で戦うことになったとき、ヨーロッパの企業は女性というリソースを労働市場から獲得できるのに対して、日本の企業は女性というリソースを獲得できない環境だということですね。それって、グローバル市場経済の中で死ぬじゃんという感覚もすごくあります。リソースが単純に少ないということじゃないですか。だからダメじゃんというシンプルな悩みというか、経営者としての危機感もあります。

もう少し話すと、最近話題になっていますが、国が2030年までに女性の役員割合を3割にしようとしているんですよね。国会議員はもう少し長くて2033年ぐらいまでに3割にしようとしている。2030年で3割ってめちゃくちゃやばくない?と思っています。すごく遠いというか、その時、世界は何割になっているのかということですよ。そこに関しては、日々危機感を感じています。

 熊本:経営者として以外にも、その女性の能力を活かす難しさというのはありますか?身体的なところなど。

深井:身体的というか、出産できるのは確かに女性だけであると。出産した時のキャッチアップの仕方が育休しかないというのは、僕の中で結構ネックだと思っています。これは、常に労働時間と育児のコンフリクトとして捉えられているということですよね。

これはヨーロッパも同じで、進んでいる国でも育休が取りやすいという状況で止まっている。かなりクリティカルな問題だなと思っています。本当はここを何か解決したいと個人的には思っています。

 熊本:その現状について、内田さんはどう思われますか。

日経xwomanオーディエンスエンゲージメント長の内田久貴氏
日経xwomanオーディエンスエンゲージメント長の内田久貴氏

内田:雑誌『日経WOMAN』は1988年に創刊した当時から、女性活用度調査を行なっています。長期的なスパンで調査データを見ると、実は日本の世の中は、結構良くなっていると読み取れるんです。また、産休育休に入ってから辞めてしまう女性が極端に減り、出産育児をしても絶対辞めない方が普通になってきました。10年前の2013年11月、『日経DUAL』という共働きのためのWebメディアを創刊したのですが、当時、すごく多かったのは「保育園落ちた日本死ね」のような読者のニーズです。これは2016年のキーワードですが、我々の10年前もまさにそういう状況で、「どうすれば保育園に入れるのか」「どうすれば仕事を辞めないで働き続けられるのか」、その知恵を欲しがっていましたし、両立の知恵というコーナーが人気でした。

しかし、ここ2〜3年前ぐらいからそうした「両立」はもうみんな解決しているという状態になっています。読者からすると、もう両立はある程度できていて、保育園に入れない待機児童数が減った状態で、次に彼女たちが求めているのは、働きながらキャリアをアップしていくことや、同じ会社で働き続けるモチベーションをどう保てるのか、それを会社はどういうことを私達にしてくれるのか?ということなんです。あと、自分自身のモチベーションをどう保てるのか。理不尽なことって多いと思うんです。その中でどう働き続けられるのかというフェーズに入っているなというのが、実は日経x womanの中ではベースになりつつあります。

一方で、先ほどおっしゃっていたように人材がいないというのはあります。大企業を辞めて転職する人が少なくなっているという気もしているんですよね。今までであれば、一旦辞めてもう一回チャレンジするため、ベンチャーなどの新たな企業に入っていく人が増えていたのかもしれないですが、今は辞める必要がなくなっています。

産休・育休を3年取ったという人も中にはいる。そういう意味では、世の中的にはいい方向にはなっているのかなと思っています。客観的な感じでちょっと申し訳ないのですが。

深井:おっしゃる通り、改善はされていると思います。それを全部否定して、全然できてないと言い続ければ、それはそれで進まないなと思っているんです。一方で、少なくとも仕事の中でのゴールとしては、労働市場上でREADY状態である女性が男性と同数いる状態だと思っているんですよ。

それってまだやはり達成されていないと思っていて、要はその仕事に作用できる人をどのくらい会社が獲得できるかという話だと思うんですよね。そこに関しては、まだだいぶ違うなと思っているんですよね。特にマネージャー層を採用しようとすると、女性の割合はかなり少なくなるわけじゃないですか。ここら辺がゴールなんじゃないかなと個人的に思っていて、このゴールを見据えたステップというのを敷いていく必要があるんじゃないかな、というのは最近思っているところですね。

女性を取り巻く環境の変化について〜歴史的観点から〜

熊本:最近では、国がリスキリングを後押ししたり、IT人材を増やそうとしたり、そういったサービスがどんどん出てきていますが、女性を取り巻く環境の変化について、歴史的な観点で深井さんからご紹介をお願いできればと思います。

深井:結論から言うと、女性の役割というのは、時代によって違います。固定化されたものではなくて、我々の認知の中で動きうるものであるということです。古代では卑弥呼がいたり、首長に女性がいたり、そういったことはありました。

例えば中国の山岳民族でも、女性主導の社会というのが未だに存在していて、世界にはそういう社会が普通にあります。巴御前など特殊な人もいながら、変遷してきているわけです。武家社会が出てくる時、日本で言うと律令制を取り入れて国をかなりシステマチックにしようとした際に、財産を誰起点で残すかという話になった時に、律令制自体が中国の父系社会の輸入なので、ここで男性に財産を残すという流れが確定してから、武家社会以降は完全に家父長制で移行していくんですね。家父長制の名残は今でも残っているのですが、戦後の高度経済成長期に入った1960年代が大きい展開点だったと思っています。

1960年代、高度経済成長期に入った時に、いわゆる専業主婦が誕生するんですよね。逆にいうと、それまではいわゆる専業主婦はいない。これにすごくびっくりしたのですが、言われてみれば確かになぁと思っています。100年前の農家においては、専業主婦ではなくて、女性も普通に農業をしているわけですよね。家業をしているところも、女性が普通に家業をしているわけだから、専業主婦ではないんですよね。

結局、核家族化して家業から離れて、都会の工場など元々住んでいた場所とは違うところに集団就職して、そこで家の福祉部門を女性が担い、仕事の部分を男性が担うという役割分担をしたことによって、専業主婦が誕生している。この潮流のようなものを、今でも少し引きずっている状態だと。スタンダードと思っているけれど、結構最近ですよというのを歴史からは分かることがあると思っています。これを何かどう考えるかみたいなのも、メタ認知して考えた方がいいなと思っています。変遷してきた中で伝統的家族という言葉もあるのですが、どの時点をもって伝統的家族にするかというのは結構恣意的なので、別にどこでもいいわけです。その辺りは、きちんとこういうファクトに基づいて考えた方がいいなと思っています。

女性を取り巻く環境の変化について〜様々な企業の取り組み〜

熊本:一方で、内田さんは企業がどういう取り組みをするべきなのかなどを取材され、考えていらっしゃると思うのですがいかがですか?

内田:近代の女性の労働背景というのがあって、1970年代モデルというのが「男は仕事。女は家庭」というやつですね。

私は1971年生まれなので、まさに70年代モデルの専業主婦の母に育てられた人間なのですが、その後、大きく変わったのが皆さんご存知の1986年の男女雇用機会均等法の制定です。

これはDeNAの南場智子さんや、現在60歳くらいの執行役員や取締役の方々が第1世代として頑張ってきた世代なんです。本当にしゃかりきに働いて、男社会でがむしゃらに働いてきて、ここまで来たという人たちが今トップ層にいるんです。

そして、その次の大きな分かれ目が1999年の「男女雇用機会均等法改正」です。これが前の均等法と何が違うかというと、「男女雇用機会均等法」の時は性別による差別を努力目標にしていたところ、99年からは禁止になったんですね。雇用する時に、男か女かで分けているというのが完全禁止になったというのが大きなポイントです。年齢で見て45歳以下、そのあたりで意識の違いが実は大きく変わってきているのではないのかなというのが一つあります。

さらに最近で言うと、2016年に「女性活躍推進法」が成立しました。今はもう男性も女性も関係ないんですよね。うちの会社もそういう空気になっているのですが、今いる会社の中でも3層いるんですよね。これは企業が政府の方針に合わせて、七転八倒してきた結果なのかな、というのがあります。さっき言っていた、企業が抱える問題を女性活用度調査でも聞いているのですが、企業ないし女性労働者の方の問題というのは、管理職になりたがらないということです。

さっき言っていたマネージャー層が市場にいないというのは、最初に入社した会社で管理職になる前に辞めたり、そこで断わって管理職ではない道を歩んだり、そういう女性が多いことが原因なんです。女性管理職を増やそうとした時に、障がいになるのが「インポスター症候群」です。「100%の能力がなければ、私は(管理職を)引き受けることができない」というぐらい女性は遠慮深くて、男性よりも自信がない方が多いようです。この問題は今のリアルな企業でも持っていらっしゃっていて、その解決方法を各社が模索しています。

例えば、資生堂は女性管理職比率が37.6%です。あの資生堂なのにまだ少ないんじゃないと思う方も多いと思うのですが、これでもすごく増えているんです。なぜこの割合になったかというと、女性社員が多いから当たり前ということではなく、資生堂は各階層でリーダー育成塾というプログラムを丁寧にやって、女性の方のモチベーションをあげてきました。それで昇格意欲がアップしたという回答がすごく多いです。また、メンター制度においても指名ではなく、メンターをやる人もメンティーをやる人も手挙げ制でやりたいと思う人がやる。部署と関係ない人がメンターとメンティーで繋がって進んでいくので、やる気を鼓舞されるというか、社内でのモチベーションアップの仕方がすごくわかっているんですね。

アフラックも女性活用の企業としてかなり有名なのですが、正社員の平均勤続年数が男女で差がないんです。既婚の女性やワーキングマザーもすごく多い。この理由は、社長自らがダイバーシティ委員長になって、こまめに声掛けをしているからなんです。社長が多様性を意識してやっているからこそ、このような活動を繰り返して成果を上げているということなんです。

あと、ネットワーク組織で社外と協業することもすごく効果が出ているという話です。3つ目は高島屋。89年に始まった女性活用度調査での上位企業です。老舗の百貨店で、女性が活躍しているイメージはあると思うのですが、女性の平均勤続年数が男性を上回る長い年月で、フルタイム勤務と短時間勤務を併用できる制度があったり、ワークライフバランスを自分でカスタマイズできる工夫をされていたりします。高島屋は、満足しないで常に新しいことをしようとしている。面白いのは、2022年10月に全職場の朝礼でアンコンシャスバイアスについて周知するセルフチェックを実施したんです。今更、高島屋さんはそんなことする必要ないじゃんって思うのですが、アンコンシャスバイアスについて改めて周知するため、わざわざ朝礼でやるくらい、常にアンテナを張って、アンコンシャスバイアスに気を張っています。アンコンシャスバイアスや女性活躍についてはゴールがありません。しかし、常に高島屋は何か新しいことというか、どんどん問題を解決していこうという姿勢があるんですね。

熊本:私は有線放送が創業50周年の時に、新卒で営業職として入社しました。入社1年目で産休を取りたいと言ったら、50年の歴史の中、営業職で産休取った人は今までひとりもいないって言われました。それまで女性の営業職は、妊娠したら辞めるという文化だったんです。しかし、当時の上司が理解のある方で、第1号産休取得営業職社員ということで、1年間産休・育休を取りました。復帰後は、同じ部署で電話営業からスタートしたのですが、当時と比べたら本当に今の流れは素晴らしいなと思っています。その後も、産休・育休を取る社員が続き、結果的にみんな戻ってきて、適正なところに配属をされて結果を出すという流れができました。会社もこの流れを認めてくれて、経営者直下に女性活躍部署を作り、どうしたらもっと女性が活躍できるのか。ライフイベントがあっても能力を発揮するにはどうしたらいいのか、この会社で自己実現ができるのかみたいなというところを一緒にやりました。

2016年にアンドファクトリーに入社した時は、会社ができて1年目だったのですが、その時に子どもがいる私達が入社するからというところで、チャイルドケア制度を社長自ら作ってくれました。今は当たり前かもしれないですが、子供が風邪をひいた時はリモートワークができたり、時短を中学生まで伸ばしてくれたり、子供を持ちながらでも働きやすかったというのは体験談としてありますね。その時は世の中が全然追いついてなかったので、こういう話を聞くとすごいなって思いました。

モデレーターのBREW株式会社 取締役 VC・広報PRの熊本薫氏
モデレーターのBREW株式会社 取締役 VC・広報PRの熊本薫氏

いま組織が求められていることとは

熊本:そんな中、組織で求められていることで、深井さんが何か考えていることはありますか。

深井:まず、先ほど言ったジェンダーの役割がどのように分岐しているかというのは、どうやら社会の主要産業が何かというのに依存しているみたいなんですよね。農業が主要産業の社会では、それに応じたジェンダーの役割分担になるし、武家のような官僚制に依拠している社会ではそのようになるし、1960年代から製造業を主要産業としていた日本社会においては、核家族や専業主婦のようなスタイルになっていったということです。

では、これから主要産業がどうなっていくかというと、やはり移り変わっていくだろうなと思っていて、それに合わせて役割分担のような変化が起こるのかなと。主要産業に依存したものとは別に、そもそも人権として自由に選べるというのはあるのですが、そのダブルラインで未来を考えていくと、ジェンダーの役割というのは、過去の50年間と全く違う状態なのだろうなというのは、歴史を勉強して考えていることですね。

その上で一つ、育休の話を聞いて難しいなと思っているのが、時間が労働と子育てでコンフリクトしているという問題と、子育てすることになった時の労働のアロケーションの振り分け方が、明らかに女性の負担が大きいことです。ここをどのようにアプローチするのがいいのかを今考えているところですね。まず一つは、核家族やばいなって思っています。私自身も核家族なのですが、核家族で子育てをしながら仕事をすること自体が、何かの設計ミスだなという感覚すごくて。まずそれを何らかの形で止める必要が実はあるのではないかなと考えています。かといって、僕がシェアハウスをしたいかといったら全然したくないし、2世帯住宅で住みたいだったら全然住みたくないんですけど、ただ核家族はやっぱ何かおかしいぞと思っているんですよね。これは全員ができるわけではないので難しいと思うのですが、今、僕が考えているのは、仲間内の同世代の子供を育てている人たち同士が近くで住んで、相互に扶助しながら育てるということは、そんなに難しくなく可能なんだなと思っているんですよ。

そういうことをやると、毎日送り迎えしなくていい環境が作れるし、病気になったら誰かが看るともできるわけですよね。僕の家族ではない人が自分の子どもを見ることも現実的に可能だなと思っているんですよ。

そのような環境を作っていくということは重要だろうなと思っているのですが、それを個々人が作ることってすさまじく難しい。では、誰がこのような環境を主導して作っていく必要があるかということを今考えているのですが、それは国ではなくて株式会社だろうなと思っています。

子育てのコストを株式会社はどのように下げられるか、通勤とか送り迎えのコストをどうやって下げられるかなど。あとは家事のコストを株式会社はどうやって下げられるか。これをある程度達成できた社会は、この会社に勤めると子育てがクソほど楽になるみたいなことになるわけじゃないですか。そうするとさっき言ったREADY状態を作れると思うんですよね。ここに株式会社が法律の制定を待たずにめちゃくちゃ金使うというのがまず一つあるんじゃないかなと思っています。

正しいかどうかは分からないですが、それをやらないとあんま変わらないのではないかなと考えています。会社が報酬と別に生活コストを負担するという考え方は、凄まじいことを言っていますが、1周回っても人件費安くなるのではないかなと思っているんですよね。結局、払われた報酬って雇用者が自分の給与の中で払っているだけなので、誰かがお金を払わないといけないんですよね。優秀な人であればあるほど年収を上げないといけないわけで、それを最初に会社が負担するみたいな構図って不可能ではないです。

日本は昔から、株式会社が社会福祉を担当していることが多いんですよ。その辺りは可能性としてあるかなと思っているんだけど、転職できなくなるという問題が発生するので、それをどうするかとか考えないといけないなという気がしています。結論が出てないですが、そういう方向性で今考えつつあるみたいな話ですかね。

このような発想がどういうところから出てくるかというと、やっぱり僕は人文知だと思っていて、歴史と哲学を勉強したことによって、クリティカルシンキングに発想することができたんですよね。要は自分たちが置かれている状況というのが、そもそも論で考えた時に歴史のダイナミズムの中で変わり得る範囲でどう変わっていくかを予測するという考え方と、あとは僕たちがめちゃくちゃ当たり前だと思っていることが本当は当たり前じゃないはずだという考え方ですよね。

僕の中ではまさに育休を取ることはそのことで、生活コストと労働コストがコンフリクトするのは当たり前だと思っているのが、要はワークライフバランスですよね。僕の感覚だと、その考え方が当たり前なのって、1990年ぐらいから今ぐらいまでなのではないかなと思っているんですよ。そして、これ以上解決できないんですよね。ずっとしんどいです。どれだけ会社が育休を出そうが、ワークライフバランスを取ってくれようが、核家族で子育てすることは、めっちゃきついんですよね。なので、これを根本的に解決しようとすると、もうそこがそもそも当たり前じゃないよね、という発想に気づく必要があります。

僕たちが何を当たり前だと思っていて、何を動かせる要素だと思っていて、何を動かせない要素だと思っているかは、実は人文知を使わない限り理解することが難しいんですよ。だからこそ、僕たちは人文知を使って、歴史を勉強して、専業主婦が1960年代頃から当たり前になっていて、かつジェンダーの役割になっているのは、主要産業に依拠しているってことがわかってきた。これは人文知ですよね。今、明らかに主要産業が変化しつつあるし、世界的には製造業から金融業やITに移行したわけですよね。おそらく、金融業やIT業への移行が早かった国からジェンダーの役割が早く変遷できているはずなんですよ。

日本は製造業が強いので、ジェンダーの役割の変遷が遅い可能性があると僕は思っているのですが、こういう視点を持つのはやはり人文知から出てくると思っていて、実はこのような研究をする機関を会社が持った方がいいと思っているんですよ。これもぶっ飛んだ意見に聞こえるかもしれないですが、各会社が3人〜5人ぐらいの研究機関を持って、今取り組んでいる重要課題に対して、歴史的知見ないしは他国ではこのような対策が行われているということを調べ上げた上で、経営者に対してサジェスチョンをするという部署を持つということが具体的な解決策の一つになるのではないかなと思っています。

それって僕たちがよく言っている人文知への投資だなと思っていて、やはりこういったことを変えていくのは、僕の中では人文知なんだけど、じゃあ人文知に投資するって何をしたらいいの?というのは、1つ目の回答はさっき言った調査の部署を作るということです。要はCIAの人文知バージョンみたいなのを作って、CIAが大統領に言うみたいな感じで、それを経営者にずっとサジェスチョンし続ける。経営者が自分で調べるはしんどいので、諮問機関としてそういうのがあるという状態を作る。そこからサジェスチョンされるっていう世界を作るっていうのが、かなりいいのではないかなと最近は思っています。賛同をちょっとずつ得て、そういうのをちょっとずつ作って、めちゃくちゃこういうことを調べた上でクリティカルシンキングをして、株式会社が一つ一つファーストペンギンになっていって動いていけば現実的に社会って変わるなと思っているんですよ。

こちらの開催レポートは後編に続きます。ぜひあわせてお読みください。

 

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